12月にお届けした4人のレポートを並べてみたら、驚くほど同じパターンが浮かび上がった。全員が大量に作り、大量に失敗し、たった1つの当たりで人生を変えていた。


1人で月商1,000万円を超える人たちの、共通レポート

12月のNEWDOTでは、4人のソロファウンダーを紹介した。

ベトナム、アメリカ、インド、ロシア。国はバラバラ。業種もバラバラ。ChatGPTのUIを作った人もいれば、Googleプラグインを13本量産した人もいる。iOSアプリを30本リリースした人もいる。

でも、全員に共通するレポートがあった。

それを今日は横並びで比較してみたい。4人のレポートを見比べると、「1人で稼ぐ」の再現可能なパターンが、くっきり見えてくる。

これ、めちゃくちゃ面白いよ。


全員が「大量に作って、大量に捨てた」

まず、最初に目を引くのがこの数字だ。

人物作った数失敗した数生き残った数
トニー・ディン10個6個1個(TypingMind)
デイモン・チェン5個4個1個(Testimonial.to)
アミット・アガルワル13本一度全消滅13本(復活)
ヴィクトル・セラリーエフ30本3回のゼロ体験複数(ポートフォリオ型)

4人合計で、58個のプロダクトを世に送り出している。

そして、そのうち大半が死んでいる。

「最初から当たりを引いた人」は1人もいない。全員が、何度も何度も作っては壊し、作っては壊し、ようやく1つの当たりにたどり着いている。

ここが面白いんだけど、彼らは「失敗した」とは言わない。「試した」と言う。この言葉の選び方に、ソロファウンダーのマインドセットが詰まっている気がする。

12月5日にお届けしたトニー・ディンの記事では、10個のプロダクトを作って6個が死んだ話を詳しく書いた。

14ドルから始まったプロダクトが、月商1,000万円になるまで

NEWDOT

14ドルから始まったプロダクトが、月商1,000万円になるまで

Tony Dinhは、大企業を辞めてインディーハッカーになり、TypingMindで月$70K以上を稼いでいる。

newdot.app/p/tony-dinh-typingmind

トニー・ディンはベトナム出身のエンジニアだ。もともとはシンガポールで年収約1,575万円($105,000)を稼いでいた。安定していた。誰もが羨む給料だった。

でも、独立した。

そして最初の数ヶ月、月収は約7万5千円($500)まで落ちた。年収1,575万円から、月収7万5千円。この落差、想像できるだろうか。

それでも彼はプロダクトを作り続けた。1個目、2個目、3個目……。鳴かず飛ばずが続く。6個が死んだ。でも手を止めなかった。

そして7個目か8個目か、正確な順番は分からないけれど、TypingMindが当たった。

TypingMindはChatGPTの「ガワ」だ。バックエンドなし。データベース不要。OpenAIのAPIキーを入力すると、より使いやすいインターフェースでChatGPTが使える。それだけ。

買い切り約5,850円($39)。シンプルなプロダクト。でも、これが月約1,245万円($83,000)を生むようになった。

なぜか。

タイミングだ。ChatGPTが爆発的に広がった2023年初頭、「もうちょっと使いやすかったらいいのに」と思った人が世界中にいた。トニー・ディンはその波に、たまたま——いや、大量に作り続けていたからこそ——乗れた。

彼のマーケティングチームはXだけだ。広告費ゼロ。Xで自分のプロダクトについて発信し、ユーザーの声をリツイートし、アップデートを報告する。それだけで月商1,000万円を超えた。

トニー・ディン

トニー・ディン

@tdinh_me

TypingMind創業者・ソロエンジニア

x.com/tdinh_me

ここで一つ注目してほしいのは、TypingMindのビジネスモデルだ。月額サブスクリプションではなく、買い切りで約5,850円($39)。SaaSの世界では「月額課金こそ正義」という空気がある中で、あえて買い切りを選んでいる。

なぜか。

トニー・ディン本人はこう説明している。「サブスクリプションは顧客にプレッシャーをかける。買い切りなら、お客さんは安心して使える。そしてアップグレード版を出せば、満足した顧客はまた買ってくれる」

実際、TypingMindはベーシック版の約5,850円に加えて、プレミアム版やチーム版を提供している。既存顧客がアップグレードすることで、新規獲得に頼らなくても売上が積み上がる構造になっている。

サーバー代はほぼゼロに近い。バックエンドがないということは、AWSやGCPに月数十万円払う必要がないということだ。売上の大部分がそのまま利益になる。この利益率の高さが、1人で月商1,000万円を実現できる理由の一つだ。


「期限付きの挑戦」という共通フォーマット

4人の中で、特に印象的だったのがデイモン・チェンの話だ。

12月12日にお届けした記事で詳しく書いたけれど、彼は自分に「期限」を設けていた。

Ciscoを辞めた男が、1人で月商1,000万円のSaaSを作った

NEWDOT

Ciscoを辞めた男が、1人で月商1,000万円のSaaSを作った

Damon Chenは、レビュー収集ツールTestimonial.toを1人で運営し、月$60K以上を稼いでいる。

newdot.app/p/damon-chen-testimonial

デイモン・チェンはCiscoで8年間働いていた。大企業。安定した給料。でも、何かが足りなかった。

彼は退職する前に、こう決めた。

「1年で10万ドル。できなかったら、企業に戻る」

約1,500万円($100,000)。これが彼のデッドラインだった。

この「期限付きの挑戦」というフォーマット、実は4人のうち少なくとも3人に共通している。トニー・ディンも「貯金が尽きるまで」という暗黙の期限があった。ヴィクトル・セラリーエフも「10アプリチャレンジ」という明確なフレームを自分に課していた。

なぜ期限を設けるのか。

たぶん、期限がないと「いつかうまくいく」という甘い幻想に逃げてしまうからだ。期限があると、1つのプロダクトに固執しすぎることを防げる。ダメならすぐ次に行ける。判断が速くなる。

デイモン・チェンの場合、5つのプロダクトを作った。最初の4つは収益ゼロ。文字通りのゼロだ。1円も稼げなかった。

でも5つ目のTestimonial.toが当たった。

Testimonial.toは、顧客のレビューを集めて、自分のWebサイトに埋め込めるツールだ。SaaS企業やフリーランスが「お客さんの声」を見せたいとき、これを使う。

面白いのが、彼はこのサービスのためにドメイン「testimonial.to」を約525万円($35,000)で購入していることだ。まだ収益ゼロの段階で。この判断、普通じゃない。でも彼には確信があった。

「レビューは、すべてのビジネスに必要なものだ。このドメインの価値は間違いなく上がる」

結果として、Testimonial.toは月約900万円($60,000)以上を稼ぐプロダクトに育った。従業員ゼロ。1人で。

ドメインへの約525万円の投資は、数ヶ月で回収された。

デイモン・チェン

デイモン・チェン

@damengchen

Testimonial.to創業者

x.com/damengchen

デイモン・チェンの話で、もう一つ心に残ったことがある。彼はCiscoで8年間、快適に過ごしていた。給料は十分。福利厚生も手厚い。同僚も優秀。辞める理由が、外から見ると分からない。

でも彼はこう言っている。「快適さは、ゆっくりと人を殺す。毎日同じことをして、毎月同じ給料をもらって、気づいたら10年が経っている。それが怖かった」

この感覚、分かる人には深く刺さると思う。「不満があるわけじゃないけど、このままでいいのか」という漠然とした焦燥感。デイモン・チェンはそれを無視しなかった。

「1年で10万ドル」という期限を設けたのは、退路を断つためではなく、「この不安に向き合う期間」を決めるためだったのかもしれない。1年間だけ、全力でやってみる。それでダメなら、少なくとも「やらなかった後悔」はなくなる。

結果として、ダメじゃなかった。5つ目のプロダクトが当たった。でもこの話の本質は「5つ目が当たったこと」ではなく、「5つ作る覚悟があったこと」だと思う。


「プラットフォームの上」に乗る勇気と恐怖

3人目のアミット・アガルワルのレポートは、他の3人とは少し毛色が違う。

12月19日にお届けした記事を読んだ人は覚えているだろう。

Googleプラグイン13本。総インストール数5,000万回以上。従業員ゼロ。推定年収10億円超。

NEWDOT

Googleプラグイン13本。総インストール数5,000万回以上。従業員ゼロ。推定年収10億円超。

Amit Agarwalは、インドからGoogle Workspaceプラグインだけで巨大な収益を上げている。

newdot.app/p/amit-agarwal-labnol

アミット・アガルワルはインド在住のソロファウンダーだ。もともとはブロガーだった。Digital Inspirationというテックブログを運営し、そこからGoogle Workspaceのプラグイン開発に軸足を移した。

彼が作ったGoogle Workspaceプラグインは13本。総インストール数は5,000万回以上。従業員はゼロ。推定年収は約10億円を超える。

この数字、ちょっと意味が分からないレベルだ。

彼のレポートの核心は「プラットフォームの上に乗る」ことだ。

Google Workspace——Gmail、スプレッドシート、ドキュメント、フォーム——は世界中で何十億人が使っている。その巨大なプラットフォームの上で、「あったら便利」な機能を小さなプラグインとして提供する。集客はGoogleがやってくれる。マーケティング不要。Googleのマーケットプレイスに並べるだけで、ユーザーが勝手にやってくる。

でも、このレポートには致命的なリスクがある。

2012年、アミット・アガルワルはそれを身をもって経験した。

Googleがプラットフォームのポリシーを変更し、彼のプラグインが全て消えた。全部だ。13本すべてが、一夜にして利用停止になった。

収入ゼロ。

この恐怖は、ヴィクトル・セラリーエフも知っている。彼はAppleのApp Storeで同じ経験をしている。Appleの審査で、アプリが一斉に削除されたことがある。

プラットフォームの上に乗るということは、プラットフォームの気分次第で全てを失うということでもある。

それでもアミット・アガルワルは戻ってきた。ポリシーに適合するようにプラグインを作り直し、再び13本をマーケットプレイスに並べた。そしてProduct Huntの年間最優秀賞「Golden Kitty Award」を受賞するまでになった。

彼はこう語っている。

「プラットフォームリスクは確かにある。でも、プラットフォームの上に乗らないリスクの方が大きい。ゼロから自分でトラフィックを作るのは、個人には無理だ」

これは正直なところ、4人の中で最も議論が分かれるポイントだと思う。トニー・ディンやデイモン・チェンは自分のドメインで、自分のプロダクトを売っている。プラットフォームに依存していない。一方でアミット・アガルワルとヴィクトル・セラリーエフは、GoogleやAppleという巨大プラットフォームの上でビジネスを構築している。

どちらが正解か。

たぶん、正解はない。でも、両方のレポートを知っておくことに意味がある。


30本のアプリを1人で回す男のルーティン

4人目、ヴィクトル・セラリーエフ。

彼の話は、12月26日にお届けした記事で書いた。ロシア出身。iOSアプリを30本運用し、月収約900万円($60,000)を稼いでいる。

iOSアプリを30本作り、月収6万ドルを稼ぐ男

NEWDOT

iOSアプリを30本作り、月収6万ドルを稼ぐ男

Viktor Seraleevは、ロシアからiOSアプリ30本でグローバルビジネスを構築した。

newdot.app/p/viktor-seraleev-sarafan

ヴィクトル・セラリーエフのレポートは、4人の中で最も「量」に振り切っている。

他の3人が「1つの当たりプロダクト」で勝負しているのに対して、彼は30本のアプリのポートフォリオで稼いでいる。1本あたりの収益は小さくても、30本束ねれば月900万円になる。

この「ポートフォリオ型」のアプローチ、面白いのは分散投資の発想だということ。

1つのアプリがAppleの審査で落とされても、残り29本がある。1つのカテゴリが不調でも、他のカテゴリがカバーする。アミット・アガルワルが「全部消えた」恐怖を経験したのと対照的に、ヴィクトル・セラリーエフは最初から「消えることを前提に」ポートフォリオを組んでいる。

彼の過去もまた壮絶だ。3回のゼロ体験がある。

最初のゼロは、普通に鳴かず飛ばずのアプリ。2回目は、Appleの審査ポリシー変更でアプリを一斉に削除されたとき。3回目は——公開されている情報だと詳細は分からないが——事業の方向転換で一から出直した時期だ。

3回ゼロになって、それでもまた作り続けた。

「9時5時で働くのは無理だ。自分の時間を他人に売るなんて、考えられない」

これは彼の有名な言葉だ。この強烈な「雇われたくない」という意志が、何度ゼロになっても立ち上がる原動力になっている。

彼のマーケティングで特筆すべきはTikTokだ。1日6本の動画を投稿する。6本。毎日。これは尋常じゃない量だ。でも、アプリのデモ動画や使い方動画をショートフォーマットで量産し、それがApp Storeへの流入を生んでいる。

ちなみに、彼のTikTok運用は非常にシステマティックだ。1本の動画は15秒〜60秒。アプリの機能を1つだけ見せる。テキストオーバーレイで「こんなとき困らない?」と問いかけ、アプリの操作画面を見せ、「リンクはプロフィールに」で締める。このテンプレートを30本のアプリ分回すだけで、毎日のコンテンツが生まれる。量産の仕組み化だ。

彼は「10アプリチャレンジ」と呼ばれるフレームワークも提唱している。「まず10本のアプリを作れ。1本が当たればラッキー。3本当たれば生活できる」という考え方だ。これはトニー・ディンの「10個作って6個死亡」と見事に符合する。


4人のレポートを分解する:共通する5つの材料

ここからが、この記事の本題だ。

4人のレポートを並べてみて、共通する「材料」が5つ見えてきた。

その前に、少しだけ補足しておきたい。

この「5つの材料」は、僕が4人のレポートを並べて見つけたパターンだ。彼ら自身が「これが成功の秘訣です」と語ったわけじゃない。あくまでNEWDOTの視点から、4つの記事を横断的に読み直して抽出したものだ。その前提で読んでほしい。

材料1: 大量生産と高速廃棄

4人とも、最初のプロダクトで成功していない。全員が複数のプロダクトを作り、大半を捨てている。

これは「リーンスタートアップ」とか「MVP」とか、スタートアップの世界でよく語られる概念と似ているようで、微妙に違う。彼らは最初から「大半が死ぬ」と分かっていて作っている。検証して改善するのではなく、作って出して、反応がなければ即座に次に行く。

トニー・ディンは10個。デイモン・チェンは5個。ヴィクトル・セラリーエフは30本。アミット・アガルワルは13本。

数を打つこと自体がレポートの一部なのだ。

「まず10個作れ」というアドバイスは、スタートアップ界隈ではよく聞く。でも実際にやる人は驚くほど少ない。ほとんどの人は1個目に固執する。「このアイデアを完璧にしてからリリースしよう」と考える。その結果、永遠にリリースされないプロダクトがハードディスクの中で眠ることになる。

4人はその罠にハマらなかった。「完璧にする前に出す。反応がなければ捨てる。次を作る」——この高速サイクルが、全員に共通する最初の材料だ。

材料2: 技術的にシンプル

4人のプロダクトに共通するのは、技術的な複雑さが驚くほど低いことだ。

TypingMindはバックエンドなし、データベース不要のフロントエンドアプリ。Testimonial.toはレビューを集めて埋め込むだけのシンプルなSaaS。アミット・アガルワルのプラグインはGoogle Workspaceの既存APIの上に乗った小さな拡張機能。ヴィクトル・セラリーエフのiOSアプリも、1本1本は比較的シンプルなユーティリティだ。

誰も、革命的な技術を発明していない。

既にあるプラットフォーム、既にあるAPI、既にあるニーズに対して、「ちょっと便利にする」ものを作っているだけだ。これ、すごく大事なポイントだと思う。

「1人で月1,000万円」と聞くと、天才プログラマーが超高度な技術で何かすごいものを作っているイメージがあるかもしれない。でも実態は、「既にあるものをちょっと使いやすくした」だけだ。

これは希望の話だ。技術力で勝負する必要がないなら、「アイデアと行動力」で戦える。プログラミングの天才でなくても、既存のAPIやプラットフォームの上に「ちょっと便利なもの」を作れれば、月1,000万円の可能性がある。

もちろん、プログラミングのスキルは必要だ。でも、博士号レベルのAI研究や、画期的なアルゴリズムの発明は不要。基本的なWeb開発やアプリ開発のスキルがあれば、4人がやったことは技術的に再現可能だ。

材料3: マーケティングは「乗る」か「叫ぶ」

マーケティングのアプローチは大きく2パターンに分かれた。

「乗る」派: アミット・アガルワルとヴィクトル・セラリーエフ。GoogleマーケットプレイスやApp Storeという既存のプラットフォームに乗り、プラットフォームのトラフィックを活用する。自分で集客しない。

「叫ぶ」派: トニー・ディンとデイモン・チェン。XやProduct Huntで自ら発信し、ユーザーを集める。特にトニー・ディンは「Xが自分の営業チーム」と言い切っている。

どちらが優れているか、ではない。どちらも機能している。

ただし、リスクプロファイルは異なる。「乗る」派はプラットフォームリスクを抱える代わりに、マーケティングコストがほぼゼロ。「叫ぶ」派はプラットフォームに依存しない代わりに、常に発信し続ける労力が必要になる。

ヴィクトル・セラリーエフは面白いことに、両方をやっている。App Storeに「乗り」ながら、TikTokで「叫んで」もいる。1日6本の動画投稿は「叫ぶ」の極致だ。

材料4: 「戻れる場所」を持っている

これは見落としがちだけど、4人とも元エンジニアだ。

トニー・ディンは元ソフトウェアエンジニア(年収約1,575万円)。デイモン・チェンはCiscoで8年。アミット・アガルワルはテックブロガーから技術者へ。ヴィクトル・セラリーエフもiOS開発者だ。

全員が「最悪、企業に戻れば食える」というセーフティネットを持っていた。デイモン・チェンに至っては、それを明言している。「1年で10万ドル。できなかったら戻る」と。

これは夢を壊すかもしれないが、大事な事実だ。「全てを捨てて飛び込んだ」のではなく、「戻れる場所を確保した上で挑戦した」のだ。このニュアンスの違いは大きい。

再現可能なレポートとして見たとき、「まず戻れるスキルを身につけてから挑戦する」のが、4人全員に共通するパターンだった。

材料5: 孤独を選んでいる

4人とも、従業員を雇っていない。

月商1,000万円を超えても、雇わない。年収10億円を超えても、雇わない。

普通なら、売上が伸びたら人を雇う。チームを作る。組織をスケールさせる。でも、4人ともそれを明確に拒否している。

なぜか。

推測だが、「人を雇った瞬間に、自分がやりたくないことが増える」からだと思う。マネジメント、採用、評価、ミーティング——。彼らが企業を辞めた理由そのものが、待ち受けている。

ヴィクトル・セラリーエフの「9時5時で働くのは無理だ」という言葉は、裏を返せば「他人に9時5時を強いるのも無理だ」ということかもしれない。

1人でいること。これはコスト削減の話ではない。ライフスタイルの選択だ。

面白いのは、4人とも「スケールしない」ことを恐れていないことだ。普通のスタートアップ思考なら、「もっと大きくしなきゃ」「チームを作って10倍にしなきゃ」と考える。投資家もそれを求める。でも彼らは投資家を入れていない。株式を渡していない。だから、「大きくしなきゃ」というプレッシャーがない。

月1,000万円を1人で稼いで、それで満足している。もっと大きくする必要がない。自分の時間、自分のペースを守れるなら、売上が2倍にならなくてもいい。

この「足るを知る」感覚が、ソロファウンダーのレポートには欠かせない材料なのかもしれない。

逆に言えば、「もっと大きくしたい」「100億円企業を作りたい」という人には、このレポートは向かない。そういう人にはスタートアップの道がある。資金調達して、チームを組んで、急成長を目指す道。

でもNEWDOTが紹介するのは、もう1つの道だ。1人で、小さく、自由に。そしてそれでも月1,000万円に届く道。


数字で見る、4つのレポートの違い

ここで、4人のレポートを数字で比較してみよう。

トニー・ディンデイモン・チェンアミット・アガルワルヴィクトル・セラリーエフ
出身ベトナムアメリカインドロシア
前職エンジニア(年収約1,575万円)Cisco(8年)ブロガー
プロダクト数10個5個13本30本
失敗数6個4個全消滅1回ゼロ体験3回
当たりプロダクトTypingMindTestimonial.toGoogle Workspaceプラグイン群iOSアプリ群
月収約1,245万円($83,000)約900万円($60,000+)推定年収10億円超約900万円($60,000)
従業員0人0人0人0人
主な集客XProduct Hunt・口コミGoogleマーケットプレイスApp Store + TikTok
一点突破型一点突破型プラットフォーム寄生型ポートフォリオ分散型

4人の月収(または年収換算)を合計すると、年間で数十億円規模になる。従業員は合計0人。オフィスもない。全員が自宅やカフェで、ラップトップ1台で仕事をしている。

これが2024年のソロファウンダーのリアルだ。

もう少し掘り下げてみたい。

集客チャネルの違いが、プロダクトの性質を決定的に左右している。トニー・ディンがXで成功できたのは、TypingMindのターゲットユーザーがまさにXにいるからだ。AIツールに興味がある開発者やパワーユーザーは、Xで情報収集する。だからXでの発信がダイレクトにコンバージョンにつながる。

一方、アミット・アガルワルのGoogle Workspaceプラグインは、ターゲットユーザーが「Googleで業務をしている普通のビジネスパーソン」だ。彼らはXでプラグインを探したりしない。Googleのマーケットプレイスで「メール 一括送信」とか「スプレッドシート 自動化」と検索する。だからマーケットプレイスに置くのが最適解なのだ。

ヴィクトル・セラリーエフのTikTok活用も同じロジックだ。彼のiOSアプリの多くは、写真加工やライフスタイル系のカジュアルなアプリだ。ターゲットはTikTokを日常的に使う若い世代。だからTikTokで見せるのが正解。

つまり「どこで売るか」は「誰に売るか」で自動的に決まる。これはレポートの大事な材料だ。自分のプロダクトのユーザーが「どこに住んでいるか」を見極めること。物理的な住所ではなく、デジタル上の居場所のことだ。

デイモン・チェンのTestimonial.toは、Product Huntでのローンチが大きな転機だった。SaaSの新しいツールを探しているアーリーアダプターが集まる場所で、レビュー収集ツールという「SaaS企業が使うSaaS」を紹介する。完璧なマッチングだ。


「あなたのレポート」は、どの型に近い?

最後に、4人のレポートを3つの「型」に整理してみた。

型1: 一点突破型(トニー・ディン / デイモン・チェン)

大量に作って、1つの当たりに全てを賭ける。当たったプロダクトにリソースを集中し、そこを徹底的に磨く。リスクは高いが、当たったときのリターンも大きい。マーケティングはSNSと口コミが中心。

この型が向いているのは、「自分のブランドで、自分のプロダクトを売りたい」と思う人だ。プラットフォームに依存したくない。自分のドメインで勝負したい。そういう人のレポート。

型2: プラットフォーム寄生型(アミット・アガルワル)

巨大プラットフォームの上に小さなプラグインやアドオンを作り、プラットフォームのトラフィックで稼ぐ。マーケティングコストはほぼゼロ。でもプラットフォームリスクが常にある。

この型が向いているのは、「マーケティングは苦手だけど、技術で価値を提供できる」人だ。Google、Apple、Shopify、Notion——プラットフォームのエコシステムは無数にある。

型3: ポートフォリオ分散型(ヴィクトル・セラリーエフ)

大量のプロダクトを並行運用し、ポートフォリオ全体で稼ぐ。1つが倒れても他がカバーする。リスク分散の発想。ただし、30本のアプリを1人でメンテナンスし続ける体力が必要になる。

この型が向いているのは、「1つに絞れない。色々作りたい」という人だ。飽き性で、次から次にアイデアが浮かぶタイプ。それは弱点ではなく、この型ではむしろ強みになる。


自分がどの型に近いか、考えてみてほしい。

「これだ!」と思えるアイデアが1つあって、それに賭けたいなら一点突破型。マーケティングが得意でなくても、技術でプラットフォームに貢献できるならプラットフォーム寄生型。アイデアが次から次に浮かんで止まらないなら、ポートフォリオ分散型。

どれを選んでも共通するのは、「まず作る」ことだ。型を選ぶ前に、最初の1つを作ること。それが全てのスタートラインになる。

トニー・ディンの最初のプロダクトは、たった約2,100円($14)の売上だった。でもその2,100円が、月商1,000万円への最初の一歩だった。

デイモン・チェンの最初の4つのプロダクトは、売上ゼロだった。でもその4回のゼロがなければ、5つ目のTestimonial.toは生まれなかった。

どの型が正解か、なんてことは言えない。4人とも、それぞれのやり方で、それぞれの月1,000万円にたどり着いている。

でも、1つだけ確実に言えることがある。

4人とも、最初はゼロだった。

トニー・ディンは月収約7万5千円($500)からスタートした。デイモン・チェンは収益ゼロのプロダクトを4つ作った。アミット・アガルワルは一度全てを失った。ヴィクトル・セラリーエフは3回ゼロに戻った。

それでも、作り続けた。

「何を作るか」より、「作り続けるかどうか」。

4人がもし最初の失敗で止めていたら。トニー・ディンが1個目のプロダクトで「やっぱり無理だ」と諦めていたら。デイモン・チェンが2つ目の失敗で「もう企業に戻ろう」と決めていたら。アミット・アガルワルがプラグイン全消滅のとき「もうGoogleとは関わらない」と見切りをつけていたら。ヴィクトル・セラリーエフが最初のゼロ体験で「やっぱり9時5時の方が安全だ」と思っていたら。

今頃、4人とも普通のサラリーマンだったかもしれない。それが悪いわけじゃない。でも、彼らの人生は今とは全く違うものになっていただろう。

4人のレポートを横に並べて見えてきた一番大きなパターンは、結局そこに集約される気がする。

夕日に向かって歩く人のシルエット

12月の4つのレポートを書きながら、僕自身も考えさせられた。

「1人で月1,000万円」という見出しだけ見ると、キラキラした成功ストーリーに見えるかもしれない。でも中身を見れば、全員がボロボロの時期を経験している。月収約7万5千円。収益ゼロのプロダクト4連発。一夜にして全てが消滅。3回のゼロ。

この記事を読んで、「すごいな、でも自分には無理だ」と思った人がいるかもしれない。でも、4人とも最初は「自分には無理かもしれない」と思いながら始めている。デイモン・チェンが「できなかったら戻る」と言った言葉が、それを証明している。

大事なのは、「絶対に成功する」という確信じゃない。「ダメだったら戻ればいい」という余裕だ。

そしてもう1つ。4人は全員、インターネット上で公開されている情報を見ると、楽しそうに仕事をしている。苦行として耐え忍んでいるのではなく、好きなものを作って、好きな場所で、好きなペースで生きている。月1,000万円は結果であって、目的ではない気がする。

彼らにとっての本当のレポートは、「自分が楽しいと思える仕事を見つけること」なのかもしれない。そしてそれを見つけるために、大量に作って、大量に試して、自分に合うものを探し続けた。

今月もNEWDOTを読んでくれて、ありがとう。

来月も、新しい生き方のレポートを届けます。


参考文献

- Tony Dinh (@tdinh_me) — X / TypingMind公式サイト

- Damon Chen (@damengchen) — X / Testimonial.to公式サイト

- Amit Agarwal (@laaborable) — X / Digital Inspiration (labnol.org)

- Viktor Seraleev — TikTok / App Store公開情報