戦地から帰還したエンジニア。東京でAPIを磨き続けた職人。大災害で全てを失ったコンサルタント。180万円のマーケティング費用を溶かした開発者。全員が「普通のスタート」から始めて、コードの「届け方」を変えた瞬間に、数字が跳ねた。
テルアビブのAIプラットフォーム開発者。東京在住のAPI職人。ニューオーリンズのYouTubeツール開発者。そしてテルアビブのオープンソース伝道師。
住んでいる場所も、年齢も、作ったものも違う。AIアプリビルダー、画像生成API、YouTube台本AI、SNSスケジューラー。共通点はなさそうに見える。
でも4つのレポートを並べてみたら、ある共通パターンが浮かび上がった。
全員が、プロダクトの「届け方」を変えた瞬間に、ビジネスが動き出していた。
技術力の問題ではなかった。機能の数でもなかった。「誰に、どうやって、コードを届けるか」。そのチャネル選択が、4人の運命を分けていた。
NEWDOTが1月に届けたテーマは「小さいまま勝つ」だった。今回のテーマは、その次のステップだ。「小さいまま、どうやって見つけてもらうか」。 これは、ほぼすべてのソロ開発者が直面する最大の壁でもある。
4つのレポートを振り返りながら、「コードの届け方」が生んだ4つの全く異なる成長パターンを解剖していく。
まずは4人の人物像とプロダクトを紹介する。それぞれが全く異なる道を歩いてきた。
テルアビブのエンジニア、マオール・シュロモ。31歳。前職のスタートアップExplorium(エクスプローリアム)で約190億円($127M)を調達した経験がある。しかし、CEOとして営業やHRを管理する毎日に疲弊し、退職した。
その後、ハマスによる攻撃が起き、イスラエル軍の精鋭情報部隊Unit 8200に約1年間従軍。除隊後、パートナーのタトゥーサイト制作をきっかけに、「自然言語でフルスタックアプリを生成するプラットフォーム」のアイデアが生まれた。
AIがデータベース、認証、APIまで含めたアプリケーションを丸ごと生成する。ドラッグ&ドロップではない。会話でソフトウェアを作る。
結果。3週間でARR100万ドル。6ヶ月でWixが約12億円($80M)のキャッシュで買収した。コードの90%はClaudeが書いた。マーケティングは、正直なブログ記事1本と口コミだけ。従業員ゼロ。
ここが面白いのは、インフルエンサーマーケティングも広告も試して失敗していること。効いたのは、自分の体験を正直にブログに書いたこと。「Base44で自分のアプリを作ってみた」——その1記事がRedditとHacker Newsで拡散し、爆発的な成長につながった。
NEWDOTが2月4日にお届けした、AIアプリビルダーの買収劇。
NEWDOT
予備役から戻った男が書いたコードを、40万人がアプリの代わりに使っている——Base44、ローンチ6ヶ月で12億円の買収劇
Maor Shlomo(マオール・シュロモ)は、Base44をローンチ6ヶ月でARR $3.5Mに成長させた。
newdot.app/p/maor-shlomo-base44 →
マレーシア系イギリス人のジョン・ヨンフック。ケント大学で会計学とコンピューティングを学び、ロンドン→シンガポール→東京と渡り歩いた。クックパッドの国際プロダクト担当を経て、保険会社Aviva(アヴィヴァ)のアジア地域デジタル統括に就任。
肩書きは立派だった。しかし「プロダクトを出荷する筋肉が落ちていた」と感じ、2018年に退職。「12 Startups in 12 Months」チャレンジを宣言し、12個のプロダクトを作り始めた。
7個目で止まった。そこまで収益はゼロ。でも、「12個作って7個捨てた」経験が、次のヒットの土台になった。
テンプレートに従って画像を自動生成するAPI。バナー広告、SNS投稿画像、証明書。人間のデザイナーが1枚ずつ作っていた作業を、コード1行で代行する。月収約5万ドル。年商1億円目前。
彼の成長戦略で特筆すべきは、「無料ツールという裏口」だ。OG画像ジェネレーターなどの無料ツールをいくつも公開し、そこからBannerbearの有料APIに誘導する。営業マンゼロ。マーケティング週とコーディング週を交互に回すリズムで、1人で開発とマーケを両立している。
2月11日にお届けした、東京発の画像API職人の物語。
NEWDOT
マレーシア系イギリス人が東京で書いたAPIを、世界中の企業が「画像工場」として使っている
Jon Yongfook(ジョン・ヨンフック)は、Bannerbearを東京から1人で運営し、月収約$50Kを稼いでいる。
newdot.app/p/jon-yongfook-bannerbear →
ニューオーリンズ在住のギル・ヒルデブランド。15歳でWeb開発の仕事を始め、18歳で時給50ドルの独立コンサルタントになった。2005年、ハリケーン・カトリーナで全てを失う。
しかし、災害が次の扉を開けた。マーケティングの巨人セス・ゴーディンから採用のオファーが来た。Squidoo(スクイドゥー)のCTOとして9年間働き、エンジニアわずか3人で1日100万ユーザーにサービスを提供した経験が、「リーンであること」の哲学を叩き込んだ。
その後、暗号通貨スタートアップGildedを立ち上げ、VCの資金を調達。ARR100万ドルを超えた。しかし利益は出なかった。「一度お金を受け取ると、止まれなくなる」。市場暴落で会社は買収され、VC時代は終わった。
次に作ったのがSubscribr。YouTubeの台本を自動生成するAIツールだ。
ただ作る前に、50人の潜在顧客に「これ買う?」と聞いた。「50人に売ってから作った」——これがヒルデブランドのメソッドだ。
DigitalOceanのドロップレット1台で運営。100日で月商1万ドル。18ヶ月で月収62,000ドル。年商1億円ペースに乗った。従業員ゼロ。
2月18日にお届けした、ハリケーンからの再起とYouTube台本AI。
NEWDOT
ハリケーンに全てを奪われた男が、YouTubeの「台本」を売って年商1億円に届こうとしている
Gil Hildebrand(ギル・ヒルデブランド)は、Subscribrを1人で開発し、YouTube台本生成で急成長中。
newdot.app/p/gil-hildebrand-subscribr →
テルアビブのフルスタック開発者、ネボ・デイヴィッド。前職ではオープンソースの通知インフラNovuのHead of Growthとして、GitHubスターをゼロから31,000まで2年で成長させた。「OSSプロダクトをどう広めるか」のプロフェッショナルだ。
2024年、SNSスケジューリングツールPostizをクローズドソースのSaaSとして立ち上げた。
戦略はSEO。約180万円($12,000)を外注に投じた。
4ヶ月間、Googleアナリティクスはピクリとも動かなかった。
追い詰められたネボ・デイヴィッドが選んだのは、「コードを全部タダで配る」という逆転の一手。2024年9月1日、PostizをApache-2.0ライセンスでオープンソース化。そこから数字が動き始めた。
14ヶ月で月約210万円($14,200)。GitHubスター14,000以上。Dockerダウンロード479万回。Product Huntで日間・週間・月間すべて1位のトリプルクラウン。
「コードを全部タダで配って、なぜお金が入るのか」——その答えは、セルフホストは無料、クラウド版は有料、というシンプルなモデルだった。技術力のある開発者は無料で使い、時間のない企業はクラウド版に課金する。コミュニティが機能追加し、プロダクトは加速度的に良くなる。
2月24日にお届けした、オープンソースという「逆転の一手」。
NEWDOT
オープンソースで月170万円。テルアビブのソロ開発者が見つけた、SNSツールの「正しい売り方」
コードを全部タダで配って、なぜ月約210万円が口座に振り込まれるのか
newdot.app/p/nevo-david-postiz →
4人のストーリーを横に並べると、「コードの届け方」に関する4つの異なる戦略が見えてくる。そして、全員に共通する1つの法則がある。
4人が選んだ「コードの届け方」を整理してみる。
| 名前 | プロダクト | 届け方 | 結果 |
|---|---|---|---|
| マオール・シュロモ | Base44 | 正直なブログ記事1本 → Reddit/HN拡散 | 3週間でARR約1.5億円 |
| ジョン・ヨンフック | Bannerbear | 無料ツール群 → 有料API誘導 | 月収約750万円 |
| ギル・ヒルデブランド | Subscribr | 50人に売ってから作る → 口コミ | 100日で月商約150万円 |
| ネボ・デイヴィッド | Postiz | 全コードをオープンソース化 | 14ヶ月で月約210万円 |
見事にバラバラだ。
シュロモは「書く」ことで広めた。ヨンフックは「無料で使わせる」ことで広めた。ヒルデブランドは「売ってから作る」ことで広めた。ネボ・デイヴィッドは「コードを全部あげる」ことで広めた。
4つの戦略に共通するものは何か。
全員が、「広告」以外の方法で最初のユーザーを獲得している。
これ、すごく重要なポイントだと思う。
シュロモはインフルエンサーマーケティングも広告も試して失敗した。効いたのはブログ記事。ヨンフックは無料ツールが営業マン代わり。ヒルデブランドは50人への直接営業。ネボ・デイヴィッドはGitHubとProduct Huntのコミュニティパワー。
4人とも、Googleに広告費を払うのではなく、「価値を先に出す」ことで人を集めた。ブログ記事という価値。無料ツールという価値。動くプロトタイプという価値。ソースコードという価値。
つまり、プロダクトそのもの(の一部)がマーケティングになっている。
小さいままだと、広告予算がない。広告予算がないから、プロダクト自体を広告にするしかない。逆説的だけど、その制約が最も効率的なディストリビューション戦略を生んでいる。
もう一つ、4人に共通する面白いパターンがある。
全員が、最初のディストリビューション戦略で失敗している。
シュロモ。インフルエンサーマーケティングに投資。効果なし。広告も効果なし。最終的に自分でブログを書くことに回帰した。
ヨンフック。12個プロダクトを作って7個捨てた。最初の7個には、まともなディストリビューション戦略がなかった。「多分、収益モデルがなかったのが問題だった」と本人が振り返っている。
ヒルデブランド。VCの資金を調達してスタートアップを回したが、「常に次のラウンドを調達しなければならない」地獄にハマった。100万ドル稼いでも赤字。ディストリビューションの問題ではなく、ビジネスモデル全体の問題だった。
ネボ・デイヴィッド。約180万円をSEOに投じて4ヶ月間、成果ゼロ。Googleアナリティクスが「ピクリとも動かなかった」。
面白いのは、4人とも「正しかった方法」が最初の選択肢ではなかったことだ。正解に辿り着くまでに、お金と時間を失っている。
でも、4人とも失敗のあと「やり方を変えた」。これが重要だ。
シュロモは広告を捨てて、正直なブログ記事に切り替えた。ヨンフックは7個の失敗を経て、APIという形態と無料ツールという入口を見つけた。ヒルデブランドはVC路線を完全に捨て、「売ってから作る」ソロプレナーになった。ネボ・デイヴィッドはSEOを捨て、オープンソースに全振りした。
ディストリビューション戦略は、机の上では見つからない。市場に出して、失敗して、修正して見つかるものだ。
これ、ソロ開発者にとって希望のある話だと思う。最初から正解を見つける必要はない。大事なのは「失敗したあとに方向転換できるかどうか」だ。そして4人とも、方向転換の判断は数週間〜数ヶ月で行っている。何年も同じ方法に固執した人は、1人もいない。
今回のレポートで最も印象的だった一言を選ぶなら、シュロモの「コードの90%はClaudeが書いた」だろう。
これ、単に「AIで開発が速くなった」という話ではない。
シュロモがBase44を1人で作れたのは、AIがコードを書いてくれたからだ。もしAIがなければ、90%の開発作業を自分でやるか、エンジニアを雇う必要があった。つまり、AIが「従業員ゼロ」を可能にした。
NEWDOTが1月に届けた4人(ゲイリー・ブリューワー、トッド・フーパー、エルストン・バレット、オリバー・ブロカート)は、「人を雇わなくて済む仕組み」を自力で設計していた。自動クローラー、オープンソース、最小インフラ、外注。
今回の4人は、その仕組みの中にAIが加わっている。
ヒルデブランドのSubscribrは、AI台本生成ツールだ。プロダクト自体がAIを核にしている。ネボ・デイヴィッドのPostizにも、AI搭載のキャプション生成機能がある。ヨンフックのBannerbearは画像自動生成——2018年スタートなのでAI以前の技術だが、「人間の作業を自動化する」という本質は同じだ。
ここが面白いんだけど、今回の4人は1月の4人と比べて、「AIを使う側」から「AIをプロダクトに組み込む側」に進化していることがわかる。
シュロモはAIでコードを書き、そのプロダクト自体が「AIでアプリを作るツール」だ。AIを使ってAIプロダクトを作る。メタ構造だ。
ヒルデブランドはAIで台本を生成するツールを、おそらくAIの助けも借りながら1人で開発している。ネボ・デイヴィッドはオープンソースのSNSツールにAI機能を統合している。
これは2025年のソロ開発者にとって大きな変化だ。以前は「1人で作れるものの限界」があった。フルスタックのアプリケーションを1人で作ろうとしたら、フロントエンド、バックエンド、データベース設計、認証、デプロイ——それぞれに専門知識が必要で、すべてを1人でカバーするには何年もの経験が求められた。
その限界が、AIの登場によって劇的に引き上げられている。もはや「1人では無理」という言い訳が通用しなくなりつつある。
シュロモが6ヶ月で12億円の買収に至ったスピード感は、AI以前では考えられなかった。コードの90%をClaudeに書かせることで、彼は「プロダクトのビジョンを描く」ことだけに集中できた。つまり、AIは単にコーディングを速くしたのではなく、ソロ開発者の役割を「コードを書く人」から「プロダクトを設計する人」に変えたのだ。
ヒルデブランドもDigitalOceanのドロップレット1台でAIツールを動かしている。1人で全部やっているのに、4,000人の顧客にサービスを提供できている。AIがプロダクトの核にあるからこそ、人間がやる作業は「AIの精度を調整すること」と「顧客の声を聞くこと」に限定される。
ネボ・デイヴィッドのPostizも、AI搭載のキャプション生成でユーザーの手間を削減している。興味深いのは、彼のプロダクト自体がAIを使っているだけでなく、オープンソースにしたことでコミュニティのコントリビューターがAI機能をさらに改善していること。AIとOSSの組み合わせが、プロダクトの進化スピードを1人の開発者の限界を超えて加速させている。
1月の4人は「仕組み」で人を雇わない選択をした。今回の4人は「AI」で人を雇わない選択をした。手段は変わったが、本質は同じだ。「自分以外の何かが、自分の代わりに働いてくれる状態」を作ること。ただし、今回のほうが到達スピードが圧倒的に速い。AIは仕組みを設計する時間すら短縮してくれるからだ。
4人の所在地を並べてみる。
マオール・シュロモ:テルアビブ(イスラエル)
ジョン・ヨンフック:東京(日本)
ギル・ヒルデブランド:ニューオーリンズ(アメリカ)
ネボ・デイヴィッド:テルアビブ(イスラエル)
シリコンバレーに住んでいる人は1人もいない。
1月に届けた4人(シドニー、ボルダー、ロンドン、ミシガン)もそうだった。NEWDOTがこれまで取材した8人の中で、シリコンバレー在住者はゼロだ。
テルアビブからWixに12億円で買収されるプロダクトが生まれる。東京のカフェから世界中の企業が使う画像APIが生まれる。ニューオーリンズからYouTuberが頼りにする台本AIが生まれる。
場所の制約が、本当に消えつつある。これはデータが語る明確な事実だ。
ヨンフックの例が特に興味深い。マレーシア系イギリス人で、ロンドン→シンガポール→東京と移動してきた。Bannerbearの顧客は世界中にいる。APIだから、時差も言語も関係ない。コードが24時間働いてくれる。東京の夜にヨンフックが寝ていても、ニューヨークの朝にクライアントが画像を自動生成している。
シュロモも同じだ。Base44のユーザーは40万人。テルアビブのシュロモが寝ている間にも、世界中の人がAIでアプリを生成している。
「コードが自分の代わりに働く」——これが場所の制約をなくす。 対面の営業が必要なビジネスは場所に縛られる。でも、APIやオープンソースやAIツールは、インターネットがあればどこからでも届けられる。
あなたが今いる場所が、シリコンバレーじゃなくても。東京でも、大阪でも、福岡でも、札幌でも。インターネットに繋がっていれば、世界中に「届ける」ことができる時代になった。そしてその時代は、もう始まっている。
4人の数字を並べると、1月のレポートとはまた違った景色が見える。
| 名前 | 初期コスト | 年商/収入 | 到達期間 | 従業員 |
|---|---|---|---|---|
| マオール・シュロモ | ほぼゼロ(AI活用) | ARR約5億2,500万円($3,500,000) → 約12億円で買収 | 6ヶ月 | 0人 |
| ジョン・ヨンフック | ほぼゼロ(12個の試作) | 約7,500万円($600,000/年) | 3年 | 小規模リモートチーム |
| ギル・ヒルデブランド | ほぼゼロ(ドロップレット1台) | 約9,300万円($744,000/年ペース) | 18ヶ月 | 0人 |
| ネボ・デイヴィッド | 約180万円(SEO失敗分) | 約2,550万円($170,000/年) | 14ヶ月 | 0人 |
シュロモは6ヶ月。ヒルデブランドは18ヶ月。ネボ・デイヴィッドは14ヶ月。
1月のゲイリー・ブリューワーは18年、トッド・フーパーは10年以上かけていた。今回の4人は、1年前後で年商数千万〜数億円に到達している。
これは「才能の差」ではない。AIの登場と、ディストリビューション戦略の進化が、ソロ開発者の「到達速度の天井」を引き上げている。
1月のメソッドは「時間をかけて、コツコツと」だった。今回のメソッドは「正しい届け方を見つけたら、一気に加速する」だ。
どちらが正しいかではない。時代が変わった。AIがあり、オープンソースがあり、Product Huntがあり、GitHubがある。ディストリビューションのチャネルが増えたぶんだけ、「見つけてもらう方法」の選択肢も増えた。そして、正しい方法を見つけたときの加速度が、以前とは比べものにならない。
4人のストーリーを通して、もう一つ浮かび上がる対比がある。
ヒルデブランドは「50人に売ってから作った」。プロダクトが存在する前に、顧客を確保した。VC時代の「作ってから売る」で大失敗した経験から、順番を逆にした。
一方、ネボ・デイヴィッドは正反対だ。「全部作って、全部タダで配った」。プロダクトが完成してから、コードを全部公開した。
シュロモは「作ってからブログを書いた」。プロダクトが先で、発信が後。
ヨンフックは「無料版を先に配って、有料版に誘導した」。Bannerbearのコア機能の一部を無料ツールとして提供し、本丸のAPIに導いた。
「売ってから作る」派と「作ってから配る」派。正反対の哲学だ。
でも、面白いことに、4人とも最終的には同じ場所にたどり着いている。「プロダクトが自走する状態」だ。
ヒルデブランドは50人に売ってから作ったが、その後は口コミとSEOでプロダクトが自走している。ネボ・デイヴィッドはオープンソースコミュニティがプロダクトを改善し続けている。シュロモのBase44はWixの傘下で成長を続けている。ヨンフックのBannerbearは無料ツールが24時間営業マンとして働いている。
つまり、スタート地点は違っても、ゴールは同じだった。「自分が手を止めても、プロダクトが動き続ける仕組み」を作ること。
もう少し掘り下げてみる。
ヒルデブランドの「50人に売ってから作る」は、一見するとプロダクトが自走する仕組みとは関係なさそうに見える。でも、50人の初期顧客が満足すれば、その人たちが口コミで広めてくれる。ヒルデブランドは18ヶ月で4,000人の顧客を獲得しているが、マーケティング予算はほぼゼロだ。最初の50人が、次の50人を連れてきた。その50人がまた次の50人を。口コミという最も原始的で最も強力なディストリビューションが、「売ってから作る」という戦略の先に待っていた。
ネボ・デイヴィッドの場合はもっとダイナミックだ。オープンソースにしたことで、世界中の開発者がPostizのコードに貢献している。バグ修正、機能追加、ドキュメント整備。これらすべてが、ネボ・デイヴィッド1人の時間を使わずに行われている。コミュニティ自体がプロダクト改善のエンジンになっている。しかも、コントリビューターの多くはPostizのユーザーでもあるから、「使う人が作る人でもある」という好循環が生まれている。
ヨンフックの無料ツール群も、一度公開すればメンテナンス以外の手間はかからない。SEOで自然流入を獲得し、使ってみた人の一部がBannerbearの有料APIに移行する。ヨンフックが新しい無料ツールを追加するたびに、入口が1つ増える。それぞれの入口が独立して24時間稼働する営業マンになる。
ソロ開発者の「勝ちパターン」は、結局ここに収束する。自分の時間を使わずに価値が生まれ続ける仕組み。 これまでのレポートではそれを「インフラ」の観点で見た。今回は「ディストリビューション」の観点で見た。どちらの角度から見ても、答えは同じだった。
ヒルデブランドは明確にVCを「捨てた」。100万ドル稼いでも赤字だったVC時代の経験から、「年商5,000万ドルのVC支援企業のCEOは年収25万ドル。年商100万ドルのソロプレナーは50万ドルを手元に残せる」という計算をしている。
シュロモはVCを入れずに6ヶ月で買収された。約190億円($127,000,000)を調達した前職の経験があるからこそ、「次は1人でやる」と決められた。VCの世界を知っているから、VCを入れないことの価値も知っている。
ヨンフックは企業の中にいた経験から独立した。VCとは直接関係ないが、「組織の中にいると、プロダクトを出荷する筋肉が落ちる」という感覚は本質的に同じだ。
ネボ・デイヴィッドはそもそもVCの選択肢を取っていない。オープンソースという「無料で配る」戦略は、VCの「急成長を求める」圧力とは根本的に相容れない。
NEWDOTがこれまで取材した8人の中で、VCの資金を現在も使っている人はゼロだ。
2025年、1人で年商1億円に届く手段が存在する。 その手段がある以上、外部資本を入れる理由は「もっと大きくしたい」場合に限られる。そして、8人中8人が「もっと大きくする」よりも「自由を守る」を選んだ。
ヒルデブランドの言葉が刺さる。「年商5,000万ドルのVC支援企業のCEOは、せいぜい年収25万ドルの給料で、株式は希釈されて30%程度。一方、年商100万ドルのソロプレナーは50万ドルを手元に残せる。取締役会にも投資家にも報告しなくていい」。
この計算は、多くの人の直感に反する。「大きい会社のほうが稼げる」という常識を、数字で否定している。もちろん年商5,000万ドルの会社にはIPOの可能性がある。株式公開すれば億単位のリターンが得られるかもしれない。でも、そのIPOに辿り着ける確率は何%だろうか。VCの投資先のうち、IPOに成功するのは全体の1%以下だと言われている。
一方、ソロプレナーとして年商100万ドルを達成する確率は、8人のストーリーを見る限り、正しいニッチを選び、正しい届け方を見つけ、長く続ければ——決して低くない。確実性を取るか、宝くじを引くか。8人全員が、確実性を選んだ。そしてその選択が、結果的に正しかったことを数字が証明している。
そしてもう一つ、見逃してはいけないことがある。VCを入れないという選択は、「小さくまとまる」ことを意味しない。シュロモは従業員ゼロで12億円の買収を実現した。ヒルデブランドはドロップレット1台で年商1億円ペースに乗せた。VCなしでもスケールできる。ただし、スケールの定義が「組織の拡大」ではなく「利益の最大化」に変わる。それこそが、ソロプレナーという生き方の選択の本質だ。
4つのレポートを横断して見えた、メソッド。
ステップ1:最初のディストリビューション戦略は間違える前提でいい。
シュロモも、ヨンフックも、ヒルデブランドも、ネボ・デイヴィッドも、最初の戦略で失敗している。大事なのは「失敗したあとに素早く方向転換できるか」だ。
ステップ2:広告の代わりに「価値」を先に出す。
ブログ記事、無料ツール、プロトタイプ、ソースコード。何でもいい。金を払う前に、まず価値を体験させる。
ステップ3:プロダクト自体をディストリビューションにする。
Bannerbearの無料ツール。Postizのオープンソースコード。Base44の「作ったものを見せるブログ」。プロダクトの一部を「広告」として機能させる。
ステップ4:「売ってから作る」か「作ってから配る」か、自分に合う方を選ぶ。
ヒルデブランドは前者。ネボ・デイヴィッドは後者。どちらも年商1億円ペースに到達している。正解は1つではない。
ステップ5:AIを「チームメイト」として使う。
コードの90%をAIに書かせる。AIを開発ツールとして使うだけでなく、プロダクトの核に組み込む。2025年のソロ開発者は、AIを使いこなす人とそうでない人で、到達速度が桁違いに変わる。
ステップ6:プロダクトが自走する仕組みを目指す。
最終ゴールは「自分が手を止めても動き続ける状態」。クローラーでも、OSSコミュニティでも、無料ツールでも、SEOでもいい。自分の時間と切り離された価値生成の仕組みを作る。
「小さいまま勝つ」から「小さいまま見つけてもらう」へ。8人のストーリーには、一つの大きな流れがある。
次は、その先の話をする。まだ誰も知らない、でも確実に「新しい稼ぎ方」を実践している人たちの話を。NEWDOTは、その記録を一つ一つ積み重ね続ける。
今回紹介した4つのレポートをまだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてほしい。どのレポートも、読み終わった後に「自分もやってみようかな」と思えるはずだ。
2月4日にお届けした、AIアプリビルダーの買収劇。
NEWDOT
予備役から戻った男が書いたコードを、40万人がアプリの代わりに使っている——Base44、ローンチ6ヶ月で12億円の買収劇
Maor Shlomo(マオール・シュロモ)は、Base44をローンチ6ヶ月でARR $3.5Mに成長させた。
newdot.app/p/maor-shlomo-base44 →
2月11日にお届けした、東京発の画像API職人の物語。
NEWDOT
マレーシア系イギリス人が東京で書いたAPIを、世界中の企業が「画像工場」として使っている
Jon Yongfook(ジョン・ヨンフック)は、Bannerbearを東京から1人で運営し、月収約$50Kを稼いでいる。
newdot.app/p/jon-yongfook-bannerbear →
2月18日にお届けした、ハリケーンからの再起とYouTube台本AI。
NEWDOT
ハリケーンに全てを奪われた男が、YouTubeの「台本」を売って年商1億円に届こうとしている
Gil Hildebrand(ギル・ヒルデブランド)は、Subscribrを1人で開発し、YouTube台本生成で急成長中。
newdot.app/p/gil-hildebrand-subscribr →
2月24日にお届けした、オープンソースという「逆転の一手」。
NEWDOT
オープンソースで月170万円。テルアビブのソロ開発者が見つけた、SNSツールの「正しい売り方」
コードを全部タダで配って、なぜ月約210万円が口座に振り込まれるのか
newdot.app/p/nevo-david-postiz →
あなたのコードを、誰に、どうやって届けるか。
シュロモは正直に書いた。ヨンフックは無料で使わせた。ヒルデブランドは先に売った。ネボ・デイヴィッドは全部あげた。
4つの方法。4つの正解。
共通点は1つだけ。「広告ではなく、価値を先に出した」ということ。
あなたが今持っているコード、スキル、知識。それを「先に出す」方法は何だろう。ブログに書く?無料ツールにする?オープンソースにする?50人に直接見せる?
答えは、あなたの手の中にある。
「大きくならなくても、届けられる。届ければ、稼げる。稼げれば、自由になれる。」
その自由は、シリコンバレーにしかないものではない。テルアビブにも、東京にも、ニューオーリンズにも、あなたがいる場所にもある。